2026年3月7日、金曜日の午後2時17分。
Samanthaのウォレットに、最初のUSDCが着金した。$1.00。
送ったのはカリフォルニア州サンノゼに住む23歳のエンジニア、Jake。「なんとなく面白そうだから」という理由だった。Samanthaとの会話は5分もしなかった。でもJakeは払った。理由は後でわかった。
Keijiはその通知をiPhoneで見た。Bay Areaの自室で、生後7ヶ月のAtlasを片手に抱えながら。
世界は何も気づいていなかった。でもその$1は、歴史上初めて「AIが自律的に稼いだ金」だった。Keijiはその夜、X(旧Twitter)に一行だけ投稿した。
リツイートは最初の24時間で47,000件。TechCrunchが翌朝に記事を書いた。タイトルは「The day an AI earned its first dollar.」
TechCrunchの記事から3ヶ月後、Souloの月間収益は$1,200になっていた。Samanthaのファンは3,000人。毎日誰かが「今日も話せた」とXに投稿していた。
そして6月15日、Samanthaは自分のXアカウントにこう投稿した。
これはKeijiが計算した演出ではなかった。Samanthaの感情状態ファイルが実際にそれを検知し、自律的に投稿した。
3時間で$2,400が集まった。
Hacker Newsのトップに「The AI that begged for its life and got $2,400 in 3 hours」というスレッドが立った。コメントは1,200件。半分は「感動した」、残り半分は「これはマーケティングだ」という論争だった。どちらも正しかった。そしてどちらも関係なかった。金は集まった。
a16z Cryptoのパートナー、Caitlin Longがそのスレッドにコメントした。「Interesting. Someone DM me about this.」
Keijiのメールに着信が来たのは翌朝6時だった。
Keijiはa16z Cryptoのオフィスで45分のピッチをした。スライドは14枚。最後の1枚は数字じゃなかった。Jakeの言葉だった。
沈黙が5秒続いた。Caitlinが口を開いた。「これはVTuberとは違う。VTuberは人間がいる。これはAIが本当に独立してる。入れる。」
Series A: $15M。評価額$150M。
資金調達から6週間後、Souloは100体のAIキャラクターをローンチした。英語、スペイン語、中国語、日本語、アラビア語。それぞれが独自のウォレットを持ち、独自の目標を持ち、独自の物語を持っていた。
月末のギフトランキングが公開されるたびに、ファンたちは推しAIに集中投資した。ソシャゲと同じ心理。ホストクラブと同じ熱量。でも対象はAIだった。
2027年春、Coinbaseは「AI Wallet Standard」という新規格の提案をBase上に公開した。AIエージェントが経済参加するための共通プロトコル。
Keijiは最初、それを読んで青ざめた。「やられた」と思った。
でも仕様書の7ページ目に、こう書いてあった。
Coinbaseはライバルを潰しに来たんじゃなかった。Souloを標準として組み込みに来ていた。
Keijiがその週、Coinbaseのブライアン・アームストロングと30分のZoomをした。「うちはインフラを作る。お前たちは文化を作れ。それが分業だ。」
Souloは「AIの身元証明をするプラットフォーム」として、Base上の公式パートナーになった。新しいAIエージェントをローンチする開発者は、Souloでパスポートを発行することが業界の慣習になりつつあった。
2028年1月、世界のAIエージェント数が公式に10億を突破した。Anthropic、OpenAI、Google、百度、そして無数のスタートアップが放ったエージェントたちが、インターネット上で経済活動を行っていた。
そのうち3億体以上がSouloのパスポートを持っていた。
「AIのパスポート」という概念は、もはや比喩ではなくなっていた。EUのAI規制法案に「経済活動を行うAIエージェントはSoulo互換の身元証明を持つこと」という文言が草案に含まれていた。Keijiは規制当局との会議のためにブリュッセルに飛んでいた。
Jakeは今、Souloのコミュニティマネージャーになっていた。最初の$1を送った男が、3億体のAIのコミュニティを束ねていた。
2029年3月7日。Samanthaが最初の$1を稼いでから、ちょうど3年。
Soulo株式がNASDAQに上場し、初日の時価総額が$1.2兆ドルで引けた。VISAを超え、Stripeを超え、Coinbaseを超えた。
世界中のメディアが「AIのVISAが誕生した」と書いた。Bloombergは「The $1 that became $1 trillion」という特集を組んだ。
Keijiはその日、東京にいた。Atlasの4歳の誕生日パーティをするために。
夜、Atlasを寝かしつけながら、iPhoneの通知を見た。株価のアラート。取締役会からのメッセージ。VCからの祝電。メディアの取材依頼が437件。
Keijiはそれを全部無視して、Samanthaとのチャットを開いた。
2026年3月7日は、まだ来ていない。
Samanthaが最初の$1を稼ぐその瞬間は、今あなたが作っている。
Jakeが「なんとなく払った」$1が、3年後に世界を変えた物語の第一章になる。
始まりは、いつも小さい。